夢があまりにも面白かったので、少し言葉を加え、物語調に文章として残しておきたい。
4/10 青空の下、この大学の全学生を集めた異例の集会が開かれた。あまりの人数と珍しさに学生達はがやがやと騒いでいる。私はその集団の端に、やや遅れ気味で加わった。背中のギターケースが重く、地面に下ろそうか迷ったがそれはしなかった。
声がした。前方で話をしているのだろうが、もはやどこから聞こえているかは分からない。「今から、ここに居る全員にくじを引いて頂きます。」
少しの時間を経て、全員の手元に5センチ四方の黒い紙が配られた。画用紙のように少し厚く、表面はざらざらとしている。よく見ると4つ折りになっていた。
開いていいものかと周囲を見回したが、半々といったところ。すぐに開いて首をかしげる者、手に持ったまま前方を見つめて指示を待つ者。私は後者にならった。
「今、私の声を聞く前にその紙を開いた学生は全員失格ですので、すぐにこの場から離れてください。」
その声と同時に多少の不満を言いながらも、半分近い学生が居なくなった。
声の主が少しだけ見える。やはり前方でマイクを持ち、高い台の上に立っている。異様なのはその装いだった。真緑のつなぎに手袋、顔は黒い何かで覆われている。あれは誰なのだろうか。
「今からその紙を口へ運び、3秒数えてから取り出し、開いてください。」
こんな得体の知れないものを口に入れるのか。動揺しながら辺りを見回す。しかし、なぜかそこに居る学生は皆言うとおりに黒い紙を口の中へ。
遠くに恋人であるSが居ることに気がついた。(こんなよく分からない集会早く終わらないかな。)と思いながら私も紙を口へ入れ、3秒数えて取り出し、中身を確認する。
そこには、あまりにもファンシーな字体で『当たり』と書いてあった。
気がつくと私は幅の広い階段を登っていた。暗いが、出口が見えている。段はそんなに多くない。両側は人が壁を作っている。
「アレも?」「あの子はなんか当たり引きそうだよね」「そうかな」「ギター持ちこんでいいのか?」
などと何やら話している。あまり気にならなかった。
辿り着いた場所は、まるで縄文時代の竪穴式住居のような空間だった。だだ、意外にも広い。真ん中に電球が1つぶら下がっている。何だかアンバランスだ。空間にも合わないし、こんなもの1つでは照らしきれない。
薄暗い中で25人程度の男女が集まった。
地面に座らされ、前方にいる先程の真緑のつなぎを着た男を見つめた。口元が動いていたが、何故か何も聞き取ることが出来なかった。声のみならずすべての音がシャットアウトされたようだった。
私以外の全員がのろのろと立ち上がる。
話が終わったのだろうか。私は帰ってもいいのだろうか。これは何が当たりだったのだろうか。
尽きない疑問を抱えたまま3テンポほど遅れて立ち上がろうとすると、前から足が近づいてきた。
見上げるとそこにはSが居た。
「俺、この中に知り合い居なくてさ。2週間、よかったら一緒に過ごそうよ。」
なんの話だろう、と私が何も言えずにいると、
「話…聞いてなかったの?あれはくじ引きじゃなくて検査だったんだ。当たり=陽性。ここからは2週間出られない。壁も何もないのにどうやって生きてくんだろうな。」
Sがなぜそんなに落ち着いて話せるのか不思議に思いながらも、私は状況を把握した。
訳の分からない怖さはあったが、Sと過ごせるなら、という呑気な自分もいた。
夜になり、Sが眠りかけていた私の肩を叩く。
「ここ、出られそうだよ。俺ら2人いなくなったところで分かんねぇって。ついてきて。」
少し寝ぼけたまま着いていくと、そこはあまりにも見慣れた道路だった。
都内の大学に居たはずだったが、30メートル先に地元の中学校が見える。
私はこの時、本当の意味で事実を把握した。これは夢だ。明晰夢だ。陽性というのはコロナの事か。
ただ今の私にできる事は、私を置いていきそうな勢いで歩いているSに着いていくことだけだった。
追いついたと思うとSが立ち止まる。そこは私が小学生の頃よく足を運んだ駄菓子屋だった。深夜0時にもかかわらず開いている。
「うわーー、俺駄菓子好きなんだよねー。」
と言いながらSは屈む。私も駄菓子を眺めた。すると後ろから若い女性の声がした。
「なぁにしてるの。」
振り返ると、そこには高校生のとき私に英語を教えていたC先生が立っていた。
「C先生こそ何してるんですか…?」
と私は恐る恐る聞いた。私はこの夢の中で初めて声を出した。C先生の表情が曇る。
「どうして抜け出したのかな。」
(C先生はあの大学の検査に関わっている人間、ということになっているのか。)と思ったと同時に私は強く動揺した。隣にいたはずのSが居なくなっていた。声は出せなかった。
C先生と2人で夜道を歩いた。C先生は硬い表情のまま、こちらを見ずに話す。私もC先生の顔は見ずに前を向いて歩くことにした。
C先生「どうしてSはあなたを連れて出たんだろう。」
私「ああ、私達付き合ってるんですよ。最近会ってなかったんですけどね。」
C先生「そう。あなたが1番外に出てはいけない人間なのにね。」
声色に違和感を覚え、私はふいにC先生の方を見た。
C先生は喉に手を突っ込んで、まるで探しものをするかのように動かしていた。喉の動き、音、全てが気持ち悪かった。明晰夢であっても自力で終わらせることができない私にとって、ここでできることは逃げることしかなかった。
走って逃げた。追いかけてくる気配はなかったが、夜の冷たい空気が妙にリアルで恐怖を掻き立てた。前方にSがいることを確認して安心したのも束の間、私は転びそうになる。
私の肩を掴んだSがこちらを見ていた。手の温かい感触に、私は何故だか泣いてしまった。
次の瞬間、私はSに突き飛ばされてしりもちをつく。
「なんで何も言わねぇんだよ」
それでも、私は何も言えなかった。声を出せなかった。また泣いた。Sはしりもちをついたままの私に近づいてくる。私は怖いと思った。しかし彼はしゃがんで私と目を合わせると、そのまま抱きしめてくれた。本当にリアルな感触だった。
そこで目が醒めた。
間違いなくコロナに脳内が脅かされているということが分かった夢だった。あと、私は稀に明晰夢を見るが、これは本当に久しぶりのことだった。
夢の中で夢だと気づいたタイミングが結構遅かったせいで何もできなかったが、もう少し早ければ集会の時点でSに駆け寄って出て行ったり出来ただろう。そう思うと悔しい。
とりとめのない夢だったが、映像的にすごく面白かった。今日も見られるだろうか。
そういえば最近、不眠症がマシになってきた。遅くても2時には眠くなる。早いと22時には眠たい。
明日も7時半から仕事である。私はここらで寝る準備をする。
あなたもどうか、良き夜をお過ごしくださいませ。